創立費と開業費とは?繰延資産の範囲と会計や税務上の取り扱いを解説!

会社の設立や事業開始までの準備には、登録免許税をはじめとして、さまざまな費用がかかります。これらの費用は、法人の経費として損金算入されるのか分からない、という経営者の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、どのような費用が創立費や開業費に該当するのか、会計基準や税務基準に従った処理方法を解説していきます。また、会社設立にかかる具体的な費用について知りたい方は、関連記事をご覧ください。

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目次

「創立費」と「開業費」の定義・範囲は?

会社設立時にかかる「創立費」や「開業費」といった費用は、法人の経費として損金算入することができます。創立費や開業費については、その定義や範囲が会計基準や法人税法で明確に定めれていませんが、一般的には以下のような費用とされています。

創立費とは?

創立費とは、設立登記までに会社設立のために支出した費用で、会社が負担すべき費用のことをいいます。創立費に該当する費用の具体例としては、以下の項目などがあります。

<具体例>
・定款や諸規則等の作成費
・株式募集費
・目論見書や株券などの印刷費
・創立事務所の賃借料
・発起人の報酬
・設立事務のために使用する使用人の給料
・金融機関又は証券会社の取扱手数料
・設立登記時の登録免許税

開業費とは?

よく創立費と混同されること多い費用として、「開業費」というものがあります。開業費とは、会社設立後から実際に営業を開始するまでの期間に「特別に支出した費用」のことをいいます。開業費に該当する費用の具体例としては、以下の項目などがあります。

<具体例>
・チラシや会社パンフレットなどの制作費及び広告宣伝費
・印鑑や名刺の作成費
・事務用消耗品費
・開業準備のための接待交際費
・市場調査費用

開業費は、開業のために「特別に支出した費用」が対象となるため、事務所の家賃や水道光熱費、従業員の給与などの経常的に発生する費用は開業費の対象とはなりません。

繰延資産とは?

繰延資産とは、①すでに代価の支払いが完了し又は支払義務が確定し、②これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、③その効果が将来にわたって発現するものと期待されるため、その支出額を効果が及び将来期間に費用として合理的に配分する目的で経過的に貸借対照表に資産として計上された項目のことをいいます。

上記の三要件をすべて満たせば繰延資産になるはずですが、その効果の発現と期間が不明確であるため、会計上の繰延資産は「株式交付費」、「社債発行費」、「創立費」、「開業費」、「開発費」の5項目に限定されています。

「創立費」と「開業費」の処理方法

創立費と開業費はいずれも「繰延資産」と呼ばれ、①支出時に損金算入するか、②資産として創立費や開業費に計上したうえで、償却を通して損金算入することになります。また、会計基準と税務基準で処理方法が異なるため、それぞれの基準に従った処理方法と、実務上の処理方法を解説していきます。

1. 会計基準に従った処理方法

原則:「営業外費用」として処理する

会計基準に従った処理方法としては、原則として、創立費及び開業費は、いずれも支出時に「営業外費用」として費用処理します。なお、営業外費用とは、企業の主たる営業活動以外の活動から経常的に発生する費用のことをいいます。

<具体例>
会社設立後、営業準備のために広告宣伝費1,000,000円を使用し、現金で支払った場合

・支出時
(借方)営業外費用1,000,000円 (貸方)現金1,000,000円

例外:「繰延資産」として処理する

例外として、創立費及び開業費の支出時に営業外費用として処理することなく、費用収益対応の原則に基づいて、繰延資産として計上することも可能となっています。なお、繰延資産とは、創立費や開業費などのように支出した費用のうち、その支出の経済的効果が将来にわたって及ぶ資産のことをいいます。

創立費や開業費を繰延資産に計上した場合、償却期間5年以内でその支出の効果が及ぶ期間にわたって、定額法により償却しなければならなりません。なお、繰延資産の支出の効果が期待されなくなった場合、繰延資産の未償却残高を一時に費用処理することになります。

<具体例>
会社設立後、営業準備のために広告宣伝費1,000,000円を使用し、現金で支払った場合

・支出時
(借方)繰延資産1,000,000円 (貸方)現金1,000,000円

・償却時
(借方)繰延資産償却200,000円 (貸方)繰延資産200,000円

2. 税務基準に従った処理方法

税務基準に従った処理方法としては、任意の期間で損金算入することが認められています。

そのため、「会社を設立した事業年度において全額を損金算入すること」や「任意の金額だけ損金算入(任意償却)すること」もできます。また、任意償却に関しては、「償却をゼロとすること」や「未償却残高の全額を償却すること」も認められています。

<具体例>
会社設立から5年間は赤字が続き、6年目で黒字転換が見込まれる場合の繰延資産の処理方法は?
→最初の5年間は任意償却の金額をゼロとし、黒字転換する6年目に未償却残高の全額を一括償却する。

そのため、繰延資産については任意償却を選択し、会社の利益水準と相談しながら、償却期間や償却額を柔軟に設定することができ、節税対策を考えるうえで非常に効果的といえます。

3. 実務上の処理方法

実務上の処理としては、「決算書の作成にあたっては会計基準に従って会計処理を行い、会計処理と税務基準に従った税務処理との間で差異が生じる場合には、税務申告書の作成にあたって税務調整を行い税金計算をする」ということになります。

おわりに

会社設立時や事業開始の準備にかかる創立費や開業費は、税務基準に従った処理方法としては繰延資産として資産計上することもでき、その後、任意償却により損金算入することができます。そのため、会社の利益水準を考慮して、適切なタイミングで任意償却をすることで、会社設立後の節税対策に非常に有効です。

一方で、創立費や開業費の範囲は限定されているため、範囲などを十分に理解し、顧問税理士と相談したうえで、適切な会計処理及び税務処理をするようにしましょう。

ARDOR税理士事務所では、会社設立、創業融資、税務・会計顧問まで幅広くサポートを行っておりますので、お悩みごとがあればぜひお気軽にご相談ください。

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