経営者は小規模企業共済制度とiDeCoはどちらに加入すべきか?

会社員と異なり、小規模企業の経営者や個人事業主には退職金がないことが多いでしょう。そのため、経営者自身で退職金を準備していく必要があります。

小規模企業の経営者や個人事業主のための退職金の積立制度といえば、小規模企業共済制度とiDeCo(個人型確定拠出年金制度)の2つがあります。どちらも老後の資産形成のために活用できるものの、違いや活用方法がわからない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、小規模企業共済制度とiDeCoのどちらに加入すべきかを解説していきます。また、小規模企業共済制度とiDeCoの制度概要やメリットについても解説していきます。

目次

小規模企業共済制度とは?

「小規模企業共済制度」は、国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する小規模企業の経営者や役員、個人事業主向けの退職金制度です。

毎月の掛金は、1,000円から70,000円までの範囲内で500円単位で自由に選択することができます。また、支払った掛金は、その全額を小規模企業共済等掛金控除として課税所得から控除することができるため、退職金を積立しながら、所得税を節税することができます。

また、2022年3月末現在では、小規模企業共済制度への加入者は159万人と、多くの経営者や役員、個人事業主が活用しています。

iDeCoとは?

iDeCo(個人型確定拠出年金制度・通称イデコ)は、確定拠出年金法に基づいて国民年金基金連合会が運営する個人向けの私的年金制度です。

加入区分により異なり、毎月の掛金は、個人事業主では5,000円から68,000円、会社経営者や役員では5,000円から12,000から23,000円までの範囲内で1,000円単位で自由に選択することができます。また、小規模企業共済制度と同様に、支払った掛金は、その全額を小規模企業共済等掛金控除として課税所得から控除することができるため、退職金を積立しながら、所得税を節税することができます。

また、2022年12月末現在では、iDeCoへの加入者は278.5万人と、資産形成や節税対策のために多く個人が活用しています。

小規模企業共済制度とiDeCoの違いは?

一見すると、小規模企業共済制度とiDeCoは非常に似た制度のように見えますが、両制度で違いがあり、詳細に解説していきます。

1. 加入資格

小規模企業共済制度とiDeCoでは加入資格が異なり、両者を比較すると、iDeCoの方がより広範囲の方が加入できるようになっています。

小規模企業共済制度は、比較的小規模な事業を営む経営者や会社役員、個人事業主とその共同経営者に限定されています。加入資格は業種ごとに従業員数などの要件が異なるため、詳細は独立行政法人中小企業基盤整備機構のホームページをご確認ください。

従業員数が増加したなどにより、小規模企業共済制度の加入資格を満たすことができなくなると、当然ながら新規に加入することはできません。しかし、加入後に加入資格を満たすことができなくなったとしても、小規模企業共済制度から脱退させれることはありませんので、加入資格を満たしている間に加入しておくことをおすすめします。

それに対して、iDeCoは、20歳以上60歳未満の国民年金加入者であれば、基本的に加入することができます。ただし、国民年金の第1号被保険者で、農業者年金の被保険者や国民年金の保険料納付を免除されている方は、iDeCoに加入することができませんので注意するようにしましょう。

2. 毎月の掛金

小規模企業共済制度とiDeCoでは毎月の掛金が異なり、両者を比較すると、小規模企業共済制度の方がより自由に掛金を設定することができます。

小規模企業共済制度では、毎月の掛金は、1,000円から70,000円までの範囲内で500円単位で自由に選択することができます。

それに対して、iDeCoでは、加入区分によって、毎月の掛金が決まっています。個人事業主の場合は、5,000円から68,000円、会社経営者や役員の場合は5,000円から12,000から23,000円までの範囲内で1,000円単位で自由に選択することができます。

3. 掛金以外の手数料

小規模企業共済制度とiDeCoでは掛金以外の手数料が異なり、両者を比較すると、小規模企業共済制度の方が有利となっています。

小規模企業共済制度では、掛金以外の手数料はかかりません。

それに対して、iDeCoでは、掛金以外にも加入・移管手数料や加入者手数料(掛金の拠出の都度発生)、還付手数料(還付の都度発生)などの手数料がかかります。その他、iDeCoの運営管理手数料は、利用する金融機関ごとに手数料が異なるので、事前に確認するようにしましょう。

4. 給付の確実性

小規模企業共済制度とiDeCoでは運用方法が異なり、両者を比較すると、小規模企業共済制度の方がより給付の確実性が高くなっています。

小規模企業共済制度は、共済事由が発生した際に、6ヶ月以上の掛金の納付を行っている場合には掛金総額の100%以上を基本共済金として受け取ることができ、さらに36ヶ月以上の掛金の納付を行っている場合には付加共済金として共済金が加算されます。そのため、元本以上に返戻金を受け取れるという点では安心感があるでしょう。ただし、掛金の納付月数が6ヶ月未満の場合には掛け捨てになってしまうので注意するようにしましょう。

それに対して、iDeCoは、自己責任のもとで運用を行うため、運用次第で大きく資産形成することができる一方で、元本割れする恐れもあります。

5. 中途解約(任意解約)

小規模企業共済制度とiDeCoでは中途解約が異なり、両者を比較すると、小規模企業共済制度の方が有利にとなっています。

小規模企業共済制度は、中途解約をすることができ、掛金の納付月数に応じて掛金総額の80%から120%相当を解約手当金として受け取ることができます。そのため、資金ニーズに応じた柔軟に資金確保が可能となっています。ただし、掛金の納付月数が240ヶ月(20年)未満で中途解約する場合、掛金総額の100%未満となるため、いわゆる元本割れの状態になるため注意が必要です。

それに対して、iDeCoは基本的に中途解約することはできません。ただし、掛金の拠出が困難になった場合には、運用管理機関(金融機関)へ届出を行うことで、掛金の拠出を一時的に停止することはできます。

6. 貸付金制度

小規模企業共済制度とiDeCoでは貸付金制度が異なり、両者を比較すると、小規模企業共済制度の方が有利にとなっています。

小規模企業共済制度には、事業資金などの貸付金制度があり、掛金の納付期間に応じた貸付限度額(掛金の7から9割)の範囲内で資金調達することができます。退職金の積立を行いながら、もしものときには事業資金などを確保することができます。

事業資金として使用する一般貸付制度のほかにも、緊急経営安定貸付けや傷病災害時貸付け、福祉対応貸付け、創業転業時・新規事業展開等貸付け、事業承継貸付け、廃業準備貸付けなど、様々な貸付制度があります。詳細は独立行政法人中小企業基盤整備機構のホームページをご確認ください。

それに対して、iDeCoには貸付金制度はありません。

まとめ

ここまで解説してきた小規模企業共済制度とiDeCoの両制度の違いをまとめると、以下の表のとおりです。

項目小規模企業共済制度iDeCo
1. 加入資格比較的小規模な事業を営む経営者や会社役員、個人事業主とその共同経営者20歳以上60歳未満の国民年金加入者
2. 毎月の掛金1,000円から70,000円
※500円単位で自由に設定可能
個人事業主の場合:
5,000円から68,000円
会社経営者や役員の場合:
5,000円から12,000から23,000円
※1,000円単位で自由に設定可能
3. 掛金以外の手数料なし加入・移管手数料や加入者手数料、還付手数料、運営管理手数料など
4. 給付の確実性36ヶ月以上の掛金拠出で確実に給付額が増加する自己責任での運用状況により、給付額が増加することも減少することもある
5. 中途解約可能。ただし、加入から20年未満で解約すると元本割になる不可。ただし、掛金拠出を停止することは可能
6. 貸付金制度ありなし

小規模企業共済制度とiDeCoはどちらに加入すべきか?

ここまで、小規模企業共済制度とiDeCoの制度概要や違いを詳しく解説してきました。それでは、会社の経営者や役員、個人事業主などの方は、小規模企業共済制度とiDeCoのどちらに加入すべきなのでしょうか。

結論としては、小規模企業共済制度への加入を優先するとよいでしょう。

その理由としては、小規模企業共済制度では、資産形成をしながら事業リスクにも備えることができるためです、もしものときには貸付金制度を利用することで事業資金を確保することができます。それに対して、iDeCoには貸付金制度はなく、事業リスクへの備えができません。

小規模企業共済制度とiDeCoは併用すべきか?

資金に余裕がある場合には、小規模企業共済制度への加入に加えて、iDeCoへの加入も検討するとよいでしょう。

両制度は併用することが可能となっており、ともに掛金の全額を小規模企業共済等掛金控除として所得控除することができるため、高い節税効果が期待されます。両制度を利用して、老後の資産形成をしながら、節税対策することをおすすめします。

おわりに

小規模企業共済制度とiDeCoはともに掛金の全額を小規模企業共済等掛金控除として所得控除することができるため、高い節税効果が期待されるため、資金に余裕がある経営者の方は併用しながら、老後の資産形成や節税対策、事業リスクへの備えを行いましょう。

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