決算賞与による節税対策|メリット・デメリットや未払賞与の要件を解説!

業績が好調なときや決算直前に予想外に利益が出てしまった場合に、よく活用される節税対策の一つとして決算賞与があります。利益が出たから従業員に還元することでモチベーションも上がりかつ節税対策にもなれば、申し分ないと考える経営者も多いのではないでしょうか。

この記事では、決算賞与のメリット・デメリットや未払賞与の要件を解説していきます。

目次

決算賞与とは?

決算賞与とは、給与規定等で定めている夏や冬に支給される定期的な賞与とは異なり、決算前後に支払われる賞与のことをいいます。決算賞与も、通常の賞与と同様に損金算入することが認められています。そのため、業績が好調なときや決算直前に予想外に利益が出てしまった場合には、節税対策として決算賞与が利用されることがあります。

また、決算賞与は決算直前に決定することが多いため、実際の支給が決算までに間に合わないこともあるでしょう。そのような場合でも一定の要件を満たすことで、未払賞与を当期の損金に算入することが認められています。

決算賞与のメリット

決算賞与を支給することの主なメリットは以下の通りです。

1. 節税対策できる

決算賞与を支給することで、大きく節税することができます。また、一定の要件を満たせば、決算時の未払賞与であっても損金算入することができます。

例えば、課税所得1,000万円、法人税率35%の会社が決算賞与300万円を支給した場合の節税効果について見てみましょう。

①決算賞与を支給しない場合
・課税所得:1,000万円
・法人税率:35%
・法人税等:350万円(=課税所得1,000万円×税率35%)

②決算賞与を支給した場合
・決算賞与支給前の課税所得:1,000万円
・決算賞与:300万円
・決算賞与支給後の課税所得:700万円(=決算賞与支給前の課税所得1,000万円-決算賞与300万円)
・法人税率35%
・法人税等245万円(=決算賞与支給後の課税所得700万円×税率35%)

③節税効果
この会社の場合、決算賞与を支給することで、節税効果105万円(=決算賞与300万円×税率35%)を得ることができます。

2. 従業員のモチベーションアップが期待される

決算賞与は、夏や冬に支給される定期的な賞与と異なり、臨時的な賞与です。従業員としては、会社への貢献が臨時的な賞与という形で還元されることによって、仕事に対するモチベーションアップにもつながるでしょう。また、税金として国に納めるよりも頑張った従業員に還元したい、と考える経営者も多いのではないでしょうか。

決算賞与のデメリット

決算賞与を支給することの主なデメリットは以下の通りです。

1. 節税できるが、会社に残る資金が減少する

決算賞与を支給することで節税することができますが、当然のことながら、その分の決算賞与として資金が社外流出しているため、会社としては節税効果以上の支出が発生することになります。

そのため、翌期以降の資金繰りも考慮して、節税せずに税金を支払うべきか、支出が多くなるが決算賞与を支給するべきか、慎重に検討する必要があります。

例えば、課税所得1,000万円、法人税率35%の会社が決算賞与300万円を支給した場合の手元資金への影響ついて見てみましょう。

①決算賞与を支給しない場合
・課税所得:1,000万円
・法人税率:35%
・法人税等:350万円(=課税所得1,000万円×税率35%)
・手元資金:650万円(=課税所得1,000万円-法人税等350万円)

②決算賞与を支給する場合
・決算賞与支給前の課税所得:1,000万円
・決算賞与:300万円
・決算賞与支給後の課税所得:700万円(=決算賞与支給前の課税所得1,000万円-決算賞与300万円)
・法人税率:35%
・法人税等:245万円(=決算賞与支給後の課税所得700万円×税率35%)
・手元資金:455万円(=課税所得700万円-法人税等245万円)

③手元資金への影響
この会社の場合、節税効果105万円を得るために、手元資金195万円が減少してしまいます。

2. 従業員が翌期以降の決算賞与を期待するようになる

今期は予想外に利益が出たために決算賞与を支給することができた、という説明をしたとしても、従業員としては翌期以降も決算賞与が出るのではないかと期待をしてしまうものです。翌期に今期ほどの利益が出ず、決算賞与を支給できない場合には、逆に従業員のモチベーションダウンになる恐れがあります。

そのため、このくらいの利益が出たら、この割合で決算賞与を支給する、という具体的な決算賞与の支給基準を事前に明文化しておくとよいでしょう。

未払賞与を今期の損金算入する要件

賞与も給与と同じく、支給した時に損金算入されます。そのため、原則として、未払賞与は今期の損金に算入することはできません。

しかし、決算賞与の支給が決算期末までに間に合わず、未払賞与となった場合であっても、以下の要件をすべて満たすことで損金算入することができます。裏を返せば、1つでも要件を満たしていない場合には、今期の決算において損金算入することができなくなってしまいますので、注意が必要です。

(1)その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしていること。

(2) (1)の通知をした金額を通知したすべての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。

(3)その支給額につき(1)の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。

出典:国税庁「No.5350 使用人賞与の損金算入時期」

なお、上記の(1)から(3)の要件を満たしたとしても、以下のような場合には、今期の決算において損金算入することができないため、注意する必要があります。その場合には、翌期の決算で損金算入することになります。

1. 給与規定等で支給日在職基準を定めている場合

給与規定等において、賞与支給日に在職していない従業員には賞与を支給しない旨の規定をしている場合、未払賞与の債務が確定する時期は翌期の賞与支給日とみなされるため、今期に損金算入することができません。なお、仮に賞与支給日までに退職者がいなかったとしても、損金算入することはできないため、注意する必要があります。

2. 決算賞与の通知と異なる金額を支給した場合

翌期の賞与支給時に一人でも通知と異なる金額の賞与を支給した場合、遡及して今期の損金算入が認められなくなります。そのため、支給額が異なる場合には、前期の決算について修正申告することが必要になります。

税務調査対策

決算賞与は、節税対策として頻繁に利用されるため、税務調査で確認される可能性が高い項目の一つになります。
そのため、税務調査の対策として、以下の事項には注意するようにしましょう。

対策1. 決算前に決算賞与を支給する

上述のとおり、未払いの決算賞与であっても要件を満たせば損金算入することができますが、要件が複雑であり税務調査で否認される可能性もあります。そのため、決算賞与を節税対策に利用する場合には、可能な限り決算前に決算賞与を支給するようにしましょう。

対策2. 書面で通知をする

税務調査で証拠の提示を求めらる可能性もあるため、口頭ではなく、書面で従業員に決算賞与に関する通知をするようにしましょう。

おわりに

決算賞与は決算直前の節税対策として使い勝手の良い方法ではありますが、十分な検討をせず、安易に支給すると思わぬ損失が被る可能性もあるため、本当に決算賞与という選択肢が適切なのかを慎重に見定める必要があります。

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