税制適格ストックオプションとは?

ストックオプションは、株式公開を目指すベンチャー企業で役員・従業員のインセンティブプランとして一般的に活用されています。ストックオプションのうち、税制の優遇措置を受けることができるものを「税制適格ストックオプション」といいます。一見すると簡単そうにも思えますが、非常に複雑な要件となっているため、十分に理解できていない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、税制適格ストックオプションのメリット、該当するための要件をご紹介します。

税制適格ストックオプションとは?

そもそもストックオプションとは、役員・従業員のインセンティブプランとして、自社の株式を事前に定められた金額(=行使価額)で取得できる権利のことをいいます。このストックオプションのうち、租税特別措置法第29条の2の要件をすべて満たしたものを税制適格ストックオプションといいます。
税制の優遇措置があるため、インセンティブプランとしてのストックオプションは、一般的に税制適格ストックオプションであることが多いです。

税制適格ストックオプションのメリット

税制上の優遇がある

税制適格ストックオプションの最大のメリットは、ストックオプションの取得者が2つの税制の優遇措置を享受できることにあります。

1. 所得税の課税タイミング

税制適格ストックオプションの1つ目のメリットは、課税タイミングが1度ということです。
税制適格ストックオプション場合、権利行使時は非課税となり、株式譲渡時に譲渡所得として課税されます。一方で、税制非適格ストックオプションの場合、権利行使時に給与所得として課税され、株式譲渡時に譲渡所得として課税されるため、2度の課税タイミングがあります。

2. 所得税の税率

税制適格ストックオプションの2つ目のメリットは、税率が低いことです。
税制適格ストックオプションの場合、株式譲渡時に譲渡所得に該当するため、一律で20.315%の低い税率になります。一方で、税制非適格ストックオプションの場合、権利行使時に給与所得として最大55%の累進課税による税率が、株式譲渡時に譲渡所得として20.315%の税率が適用されます。所得金額によっては、株式の取得価額の過半が税金となる可能性があります。

税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの相違点をまとめると、下表のとおりになります。

種類権利行使時株式譲渡時
税制適格ストックオプション所得区分:譲渡所得
税率:20.315%
税制非適格ストックオプション所得区分:給与所得
税率:最大55%
所得区分:譲渡所得
税率:20.315%

無償発行することができる

税制適格ストックオプションは、無償発行により役員・従業員のインセンティブプランとして権利が付与されるため、取得者にとってメリットが大きいといえます。

税制適格ストックオプションの要件

税制適格ストックオプションとして取り扱うためには、次の要件をすべて満たす必要があります。詳細な要件は、租税特別措置法 第29条の2に規定されています。

1. 発行価額:無償発行

2. 付与対象者:発行会社及びその子会社の取締役・執行役・使用人・外部協力者

監査役及び大口株主(公開会社:1/10超の保有、未公開会社:1/3超の保有)は付与対象外となる点に注意が必要です。
平成31年度の会社法改正により、一定の要件を満たす外部協力者にも税制適格ストックオプションを付与できることになりました。

3. 権利行使期間:ストックオプションの付与決議後から2~10年後の8年間

4. 権利行使価額の年間制限:年間1,200万円を超えないこと。

年間1,200万円は株式の時価ではなく、権利行使価額の合計額である点に注意が必要です。
また、権利行使価額の制限を超えて権利行使した場合、1,200万円を超えた部分のみが適格要件から外れるのではなく、その制限金額を超えることとなった権利行使価額すべてに対する部分が課税対象となります。

<具体例>
年間900万円まで権利行使した状態で、追加で500万円分を権利行使し、年間合計1,400万円となったケース
→1,200万円超える200万円ではなく、500万円の全額が適格要件を満たさないと判断されます。

さらに、一度でも権利行使価額の制限に抵触してしまった場合、それ以降は税制適格ストックオプションとして行使できなくなる点にも注意する必要があります。

5. 1株当たりの権利行使価額:契約締結時の株価≦権利行使価額

付与された役員・従業員のインセンティブに寄与するために、可能な限り低い価額で発行したいという観点から、契約締結時の株価と権利行使価額を一致させることが一般的になっています。

6. 譲渡制限:他人へ譲渡禁止

ストックオプションは有価証券の一種であるため、譲渡可能と解釈されますが、他人への譲渡禁止を規定する必要があります。

7. 株式の交付:会社法第238条第1項に反しないこと

8. 保管委託:金融機関と保管・管理信託等の契約締結していること

おわりに

税制適格ストックオプションとして取り扱うためには、様々な要件を満たす必要がありますが、取得者にとって所得税の課税タイミングや税率に関して非常に大きいメリットがあります。また、役員・従業員のインセンティブプランとして優れているため、中長期目線での企業成長に役立てることもできますので、ぜひ導入の検討してみてはいかがでしょうか。

ARDOR税理士事務所では、会社設立・組織変更、創業融資、会計税務顧問までサポートを行っておりますので、お悩みごとがあればぜひお気軽にご相談ください。

お問い合わせ

税務・会計・経営に関するお悩みやご相談内容をまずはお気軽にお聞かせください。ご相談やお見積りは無料で承ります。