無償減資による税務メリットとは?中小企業化する大企業

新型コロナウイルス感染症拡大の影響が長期化しているなか、緊急事態宣言をはじめとした外出自粛や休業要請などにより影響を受けやすい飲食業界や航空業界を中心に、減資によって大企業の中小企業化の事例が増加しています。

その減資の多くが、出資者である株主への払い戻しが発生しない「無償減資」と呼ばれる減資を行っています。そのような無償減資が行われる理由の一つとして、減資により資本金を1億円以下にすることで、税制上の「中小企業」に該当し、優遇税制を受けられることが挙げられます。

この記事では、無償減資の概要、大企業が無償減資により中小企業化するメリットを解説していきます。

無償減資とは?

減資とは、会社の資本金を減少させることをいいます。特に、出資者である株主への資金の払い戻しを伴わず、資本金を減少させることを「無償減資」といいます。

そのため、無償減資は、あくまで貸借対照表の純資産内での組み替えにすぎず、実際の発行済株式総数が減少することや会社資金が流出することはありません。

<具体例>
1. 減少する資本金の額:資本金の額4億円のうち、3億円を無償減資する
2. 資本金の額の減少する方法:資本金の額3億円のみを減少させ、資本剰余金に振り替える

・無償減資を実施する前の純資産
資本金:4億円
資本剰余金:-億円
利益剰余金:5億円
純資産合計:9億円

・無償減資を実施した後の純資産
資本金:1億円(無償減資により▲3億円)
資本剰余金:3億円(無償減資により+3億円)
利益剰余金:5億円
純資産合計:9億円

無償減資の手順

無償減資は、以下の手順で行います。一般的に、無償減資は、その効力発生までに手続き開始から約1.5か月~2ヶ月ほどかかります。

手順1:株主総会の特別決議

無償減資をする場合、原則として株主総会の特別決議が必要となります。その株主総会では、以下の事項を決議する必要があります。

<決議すべき事項>
・減少する資本金の額
・減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
・資本金の額の減少の効力発生日

手順2:債権者保護手続き

減資するは、会社の債権者にとって少なからず影響が生じる可能性があります。そのため、減資する会社は、会社の債権者が1ヶ月を下らない一定の期間内に減資に対する異議を述べることができる旨を官報により公告し、かつ、知れたる債権者には個別催告をしなければなりません。

ただし、定款に新聞公告又は電子公告など官報以外の公告方法を定めている場合、定款に記載の公告方法に加えて、官報による公告をすることで個別催告を省略することができます。

手順3:無償減資の効力発生

債権者保護手続きを行い、一定の期間内に債権者からの異議申し立てがなされなかった場合、債権者が無償減資について承認したものとみなされ、株主総会で決議した「効力発生日」に無償減資の効力が発生することになります。

手順4:登記申請

無償減資の効力発生日した後、必要な書類を揃えたうえで減資の登記申請をしなければなりません。そのため、無償減資の効力発生日から2週間以内に、資本金の額が減少した旨の登記申請をする必要があります。

<主な必要書類>
・株主総会議事録
・減資する旨が記載された官報公告
・債権者への個別催告書
・個別催告した債権者一覧表

無償減資のメリット

なぜ、多くの大企業が、帳簿上の動きにすぎない無償減資を行うのでしょうか。

実は、資本金の額を1億円以下にすることで、税制上の「中小企業」に該当することになり、税制の優遇措置を受けることができるようになります。大企業が、無償減資により中小企業化することで得られる税制上のメリットは、以下のようなことが挙げられます。

1. 外形標準課税の適用対象外になる

外形標準課税とは、資本金が1億円超の法人を対象とした法人事業税の課税制度であり、その法人が生み出す付加価値額や資本金等の額といった、法人の所得ではなく、法人の外形的要素を基準とした課税する税金です。

付加価値額は、以下の算定式を用いて求めることになります。そのため、給与や家賃の支払い額などの一般管理費に対しても課税されることになり、赤字決算であったとしても法人事業税が生じる点に特徴があります。

<算定式>
付加価値額=収益配分額(報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料)+単年度損益

この外形標準課税は、資本金が1億円以下の法人は適用対象外になるため、赤字企業が減資により資本金を1億円以下にすることで、法人事業税の納税額を抑えることができます。

ただし、黒字企業では、外形標準課税の適用の有無によって法人事業税の税率が変動することから、外形標準課税を適用した方が納税額を抑えられる場合もあります。そのため、税理士に相談したうえで、無償減資すべき検討することが望ましいでしょう。

2. 繰越欠損金を100%使用することができる

前期以前の事業年度で発生した欠損金(税務上の赤字)を、当期以降に発生した課税所得(税務上の黒字)と相殺して、課税所得を減少させ、法人税等の納税額を抑えることができます。これを「欠損金の繰越控除」といいます。

資本金が1億円超の法人の場合、欠損金の繰越控除には限度額が決められています。そのため、欠損金控除前の課税所得の50%を限度として、欠損金の繰越控除をすることになります。一方で、資本金が1億円以下の法人の場合、欠損金の繰越控除に限度額がなく、課税所得の全額について欠損金の繰越控除をすることが認められています。

このため、過去に欠損金が発生しており、繰越欠損金を有している法人が、減資により資本金を1億円以下にすることで、法人税等の納税額を抑えることができます。

<具体例>
当事業年度における課税所得が4億円であり、当事業年度開始時では繰越欠損金4億円がある

・資本金1億円超の法人の場合
欠損金控除前の課税所得:4億円
欠損金の繰越控除:2億円(=欠損金控除前の課税所得4億円×50%)
欠損金控除後の課税所得:2億円(=欠損金控除前の課税所得4億円-欠損金の繰越控除2億円)
法人税等:0.7億円(=欠損金控除後の課税所得2億円×税率35%)

・資本金1億円以下の法人の場合
欠損金控除前の課税所得:4億円
欠損金の繰越控除:4億円(=欠損金控除前の課税所得4億円)
欠損金控除後の課税所得:-億円(=欠損金控除前の課税所得4億円-欠損金の繰越控除4億円)
法人税等:-億円(=欠損金控除後の課税所得-億円×税率35%)

3. その他の中小企業の優遇措置

資本金が1億円以下の法人は、外形標準課税の適用対象外になることや繰越欠損金の100%を利用できることのほかにも、一定の要件のもと中小企業向けの税制の優遇措置を受けられます

<中小法人の優遇措置>
・法人税の軽減税率
・交際費の損金算入
・少額減価償却資産の損金算入
・欠損金の繰戻還付
・特定同族会社の留保金課税の適用対象外など

おわりに

大企業の無償減資は、税制の優遇措置を享受するためという狙いも透けて見えます。一方で、大企業が中小企業向けの優遇措置を受けることが容認され続けることも想定しづらいため、今後の中小企業向け税制の改正動向が注目されます。

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